古今東西、砂糖を使った保存食というものはたくさんございます。
何故、砂糖漬けやジャムなどが「保存食」になるのか、それは食品と細菌の関係にあります。
食べ物が傷んでしまうのは、細菌やカビが活動するからです。それには「温度」「水分」「酸素」の三つが必要なのですが、砂糖には水を奪う力があります。そして、同時に「保水」する能力があるのです。
水分が全く含まれていないものが腐ったりカビが生えたりしないのは、生活の中で感じる事だと思います。また、乾燥食材であっても湿気てしまったら、傷んでしまった等の経験もあるかもしれません。
砂糖漬けで保存されている一定以上の糖度の食品やジャムなどは、水分があるように見えますが、実は砂糖の分子と結合している「結合水」と言われる状態で、細菌やカビはその水分を奪うことが出来ない(浸透圧が関係するそうです)のです。
そのため、単純に乾燥させて日持ちさせるのではなく、「保水」したまま保存するということが可能になります。
これは塩漬けなどと並び、現在のように冷蔵や冷凍もなく酸素を通さないようなパック技術もない時代、食品を日持ちさせる少ない方法の一つだったのです。
基本的に水分の保有量の多い食べ物はみずみずしく美味しいものですが、傷むのも早くなります。砂糖を使用すると、そのバランスを調整できるのです。
さて、「日持ち」する、という事は一体どういうことなのでしょうか?
京都で鯖寿司が名物となっているのは、海から遠い京都まで運べる(運んでいる間に傷んでしまわない)料理だったからです。新鮮な海の魚を、そのまま食べるという夢は京都ではなかなか叶いませんでしたので、酢や塩を使う料理が発展したと言われています。
和菓子も同じように、現在のように冷凍や冷蔵技術がなく、酸素を入らないようにパックする技術もありません。また、街道は通っていても、物流トラックや電車があるわけでもない時代に「日持ち」するということは「より遠くに届ける事ができる」という意味だったのです。
一方、日持ちのしない和菓子は、製法や姿形の噂が広まり各地で作られます。
現在のように同じ和菓子屋の売り場が多数あるようなこともなく、お客様も遠いお店に買いに行くのも困難な時代でした。
「自社の製品を届ける事ができない」という状態では、「真似して作られる」ことで自社製品が売れなくなることはあまりありません。
商標や著作権の意識がない時代ということもありますが、業界全体が寛容であり、「真似すること」の意味が違っていたのだと思います。
近年、食品の保存技術は多岐にわたり、甘くなく糖度を上げることのできる甘味料や、酸素を遮断できるパック、フリーズドライや冷凍技術などが発展しております。その恩恵を受け厳しい自然環境や宇宙空間にまで食べ物を持っていく事ができるようになりました。
しかし、和菓子においては「甘いお菓子は保存できる。甘くないお菓子は早めに食べないといけない。甘くないのに保存できるお菓子は、なにか仕掛けがある」という事は変わりません。
地産地消という言葉もよく聞くようになりました。また、冷凍やパックではなく「とれたて」「作りたて」のものは味がよいことも多く、印象の良い言葉ではないでしょうか。
逆に「わざわざ取り寄せた」「わざわざ買ってきた」というのも、やはりありがたく嬉しく感じます。
いろいろな価値観やお考えがございますが、お召し上がりになる方を思い浮かべて、お菓子をお選びいただく際の参考にしていただけましたら幸いでございます。
◇◇◇◇ 写真説明 ◇◇◇◇
「日持ちする」事と同様に、古いお菓子を作り続けて行くという事も
「時をかける」ことになるでしょうか。
写真は室町時代の天台真盛宗の開祖 真盛上人がご考案された真盛豆、
現在も弊社で製造しております。
流行や企画で新しいお菓子が次々に現れ、消えていく事の多い現代
ですが、日本各地には古くから伝承されているお菓子が沢山ございます。
作り続けるだけでは残りません。お召し上がり頂く機会があるからこそ
未来に繋がるのです。
このお菓子についての内容は金谷亘さん(京菓子司 金谷正廣)
にご協力を頂きました。
2020年9月5日(11)